判例研究·約20分で読めます

「馬祖老酒」は登録維持、「TRUEMESH」は再考へ:使用による識別力の立証ハードルはどこにあるか

「馬祖」は地名、「老酒」は酒類の一般的な呼び名。「TRUE」は真の、「MESH」は網状ネットワークを指す。文字だけ見れば、どちらも商品の産地・品目・機能を言い換えたに近い。差は条文ではなく、立証にある。

文字だけを見れば、どちらも商品の産地・品目・機能を言い換えたものに近く、裁判所も争点となった商品・役務について説明的な表示に当たると判断しました。それでも、「馬祖老酒」の登録は維持されました。一方「TRUEMESH」については、直ちに登録を認める判決ではなく、拒絶処分と訴願決定を取り消したうえで、台湾経済部智慧財産局(TIPO)に改めて処分するよう命じました。

差は条文ではなく、立証にあります。両案が主張したのは同じ救済ルート、すなわち商標法第29条第2項の使用による識別力です。本来は識別力を欠く標識でも、出願人の使用により取引上その商品・役務の識別標識となっていれば、同条第1項第1号の制限を受けません。重要なのは広告費の額だけではなく、需要者がすでにその語を出所表示として認識していることを示す一連の事実です。

本稿は、知的財産及び商業裁判所110年度行商訴字第29号行政判決(「馬祖老酒」)を主案とし、同裁判所112年度行商更一字第1号行政判決(「TRUEMESH」)を対照案として比較します。

一、本件に適用される台湾商標法の条文(抜粋)

両案とも、民国105年(2016年)11月30日改正公布・同年12月15日施行の商標法が適用されます。2026年7月29日時点の確認では、いずれも現行有効な条文です。

商標法第18条(商標と識別力の定義)

商標とは、識別力を有する標識をいい、文字、図形、記号、色彩、立体的形状、動き、ホログラム、音等、またはこれらの結合により構成することができる。
前項にいう識別力とは、商品または役務の関連消費者に、商品または役務の出所を指示するものとして認識させ、かつ他人の商品または役務と区別させるに足りるものをいう。

商標法第29条(識別力を欠く場合の不登録;使用による識別力;権利不要求の声明)

商標が次に掲げる識別力を有しない事情のいずれかに該当する場合は、登録を受けることができない。一、指定商品または役務の品質、用途、原材料、産地その他関連する特性の説明のみからなるもの。二、指定商品または役務の普通標章または普通名称のみからなるもの。三、その他識別力を有しない標識のみからなるもの。
前項第一号または第三号に該当する場合であっても、出願人が使用した結果、取引上、出願人の商品または役務の識別標識となっているときは、これを適用しない。
商標の構成中に識別力を有しない部分が含まれ、商標権の範囲に疑義を生じさせるおそれがある場合、出願人は当該部分について権利不要求の声明をしなければならない。当該声明をしないときは、登録を受けることができない。

商標法第31条第1項〜第3項(拒絶処分と処分前の是正機会)

商標登録出願について、審査の結果、第29条第1項もしくは第3項等により登録を受けることができない事情があると認められる場合は、拒絶処分をしなければならない。
前項の拒絶処分の前に、拒絶理由を書面により出願人に通知し、期間を定めて意見を述べる機会を与えなければならない。
指定商品または役務の減縮、商標の実質的変更に当たらない補正、出願の分割および権利不要求の声明は、拒絶処分前に行わなければならない。

各要件の趣旨、および両案の分岐がどの要件に対応するかは、末尾の逐条釈義で説明します。

二、判決評論

1. 主案の分析:110年度行商訴字第29号「馬祖老酒」

本件は商標異議に係る行政訴訟です。馬祖酒廠実業股份有限公司が民国105年(2016年)12月5日に、縦書き中国語「馬祖老酒」を出願し、第33類の酒類商品について登録第1851467号として登録を受けました。黄克文が異議を申し立て、商標法第29条第1項第1号違反を主張しました。知的財産局は異議不成立の処分をし、訴願も棄却されたため、異議申立人が行政訴訟を提起しました。裁判所は職権により商標権者に独立当事者参加を命じました。

異議申立人は、「馬祖」は地理的表示にすぎず「老酒」は長年貯蔵した酒を意味し地元住民が自家醸造品にも用いる語であること、商標権者が20年余り生産を停止しており市場占有率も1.5%未満であること、登録を認めれば単一事業者に地方の文化資産名称を独占させることを主張しました。商標権者と知的財産局は、生産停止は販売停止を意味せず在庫が流通し続けたこと、連江県政府の回答書、数十年の報道、国賓晩餐会や両岸トップ会談での使用記録を提出しました。

裁判所は争点を二層に分けました。まず本来的識別力の有無、次に第29条第2項の充足です。

  • 手続上の位置づけが重要です。本件は異議であり出願拒絶ではありません。商標はすでに登録・公告されており、異議申立人はこれを覆すことを求めました。判決の後半は、異議申立人の各証拠が登録を支える市場の事実を覆すに足りない理由を一つずつ説明しています。
  • 判断方法:識別力は商標と商品の関係を見て、客観的証拠により認定します。第18条第2項を引用し、商標と指定商品の関係、競争同業者の使用状況、出願人の使用態様等の要素により総合的に判断すべきとしました。重要なのは誰が先に思いついたかではなく、それが商品とどれだけ近いかです。
  • 第一層の結論:本来的識別力を欠く。「馬祖」は馬祖列島の略称、「老酒」は教育部辞典によれば長年貯蔵した酒の意で「一般に見られる普通の酒類の名称」。四文字は「馬祖地区で製造された長年貯蔵の酒」という産地の説明に当たり、客観的に出所表示として認識させるには足りません。商標権者の「自社が創作した複合語」との主張は採られませんでした。
  • 本件の結論を左右した分類問題:第1号か第2号か。「老酒」を「一般に見られる普通の酒類の名称」とする表現は第2号の普通名称に近く読めますが、裁判所は第1号を適用しました。理由は、本件商標が全体として産地の説明を伝えるものであり、単に普通名称を商標としたものではない、という点です。これは決定的でした。第29条第2項は第1号または第3号のみを救済し、第2号は対象外だからです。仮に第2号に分類されていれば、数十年の使用があってもこの救済は使えませんでした。
  • 「文化資産の独占」批判への回答。実体面では、地元住民は自家醸造酒を「馬祖老酒」と自称せず、私醸酒は市場流通が認められないため、同業者に当該語を使用する実際の必要がないとしました。制度面では、地方特色産業の一覧表に掲載されていることは、必然的に不登録事由となる説明的文字であることを意味しないとしました。
  • 判断時点は登録査定時です。最高行政裁判所の判例を引き、登録査定日である2017年5月23日を基準としました。それ以前の使用事実は算入でき、それ以降の数値は遡って覆す材料にはできません。
  • 使用期間は数十年に及び、突き合わせ可能な第三者記録があります。前身の中興酒廠の「馬祖老酒」は1959年から発売されていました。判決は1984年から2004年の具体的な報道を列挙しています。合法販売、百貨店展示、スーパー陳列、販促活動など、第三者である報道機関が数十年にわたり報じた記録です。
  • 象徴的な公開の場での使用が出所との結びつきを強めました。2008年の総統就任国賓晩餐会、2012年の再供、2015年の両岸トップ会談晩餐会の指定酒など、全国規模の公開の場で出所を商標権者に向けています。
  • 20年の生産停止がなぜ識別力をゼロにしなかったのか。生産停止は販売停止を意味せず、在庫の古酒が流通し続けました。本号が判断するのは市場の認識が途切れたかであって、生産ラインが途切れたかではありません。
  • 最も強力な一点:知的財産局の照会により得られた地元住民の認識。連江県政府は、地元住民は自家醸造酒を「自らこれを馬祖老酒とは称さず」、「地元住民の一般的な認識によれば、馬祖老酒と称する場合はいずれも」商標権者の酒を指す、と回答しました。これは使用による識別力の立証で最も難しい問いに正面から答えるものです。
  • 同業者による一般的使用の証拠がなぜ足りなかったか。異議申立人が提出した報道はわずか数点で、公開日は登録査定の前後、内容の大半が異議申立人自身に言及していました。自分の使用を示すだけでは、他人の一般的使用の証明にはなりません。

判決の結論:本件商標は本来的識別力を欠くものの、登録査定時には長期の使用により取引上、商標権者の商品の識別標識となっていたため、第29条第1項第1号の適用はないと認定されました(2021年11月18日判決)。異議不成立の原処分は維持されました。

2. 対照案の分析:同じ第29条第2項を使いながら、なぜ通らなかったのか

112年度行商更一字第1号「TRUEMESH」事件(2024年1月25日判決)が争ったのは同じことです。米国アマゾン・テクノロジーズ社が、デザインを施さない外国語「TRUEMESH」を第9類商品等について出願し、「MESH」について権利不要求の声明をしました。知的財産局は第29条第1項第1号に基づき拒絶し、最高行政裁判所による破棄差戻し後の差戻審判決が本件です。

  • 語の分解、それでも「商品に近すぎる」。主案は中国語の語義を直接読み取りました。本件では、裁判所は「両語の語義が難解ではない」ため台湾の消費者は容易に「TRUE」と「MESH」に分解し、真のメッシュネットワーク被覆技術の意味に至ると認定しました。ネットワーク関連の商品・役務の機能説明です。
  • 属地主義:外国の登録はそのまま移植できない。出願人は米国・カナダ・英国・日本等での登録を挙げましたが、裁判所は、わが国商標法は属地主義を採用しており識別力はわが国消費者の認識を基準とすべきで、外国での登録はわが国での登録を認める論拠にはならないとしました。主案にはこの問題がまったくありません。
  • 最も本質的な分岐:証拠が証明しているのは出所か技術か。主案の報道は当該語を商品として報じていました。本件の報道やショッピングサイトの表示(「Advanced TrueMesh technology」等)は、「TrueMesh」を技術の説明として用いており、出所の識別として用いていないと認定されました。
  • 隣により強い商標が立っていると、出所はそちらに帰属する。同じ紙面に原告のもう一つの商標「eero」が多く現れており、消費者は「eero」を出所標識とすると判断されました。ハウスマーク構成への実務上の警告です。ある語を技術名称として何年も扱えば、出所との結びつきはハウスマークに帰属します。
  • 台湾における証拠の不在。出願人の資料の一部は外国語で、台湾での販売量・売上高・市場占有率・広告費用のデータがありませんでした。主案が数十年の台湾での使用で満たしていた欄です。
  • 権利不要求の声明では第1号を救えない。「MESH」の権利不要求の声明は、全体の識別力欠如を救済しません。声明が処理するのは「全体は登録可能だが一部は独占させるべきでない」場面であり、全体が識別力を欠くと認定された場合には機能しません。

もっとも、全面敗訴ではありません。下線のない部分については、裁判所は出願人の識別力の主張が「根拠がないとはいえない」としました。理由の一つは、拒絶理由の事前通知が当該商標と各指定商品・役務との関連性を具体的に説明しておらず、出願人が減縮や分割を判断できなかったことです。訴願決定と原処分はいずれも取り消され、知的財産局は改めて処分すべきものとされました。出願人の直接登録請求は理由なしとして棄却されました。

両案の分岐点:証拠が証明しているのは出所か技術か、台湾での使用事実の厚み、より強い商標が出所との結びつきを吸収していないか。この三点が分水嶺です。属地主義と権利不要求の声明の限界も併せて記憶すべき差異です。いずれも単独の要件ではなく、総合判断の考慮要素です。

三、商標法の逐条釈義

第18条第2項。「関連消費者」は当該商品の実際の消費者を指し、一般大衆や外国の消費者ではありません。これが対照案の「わが国消費者の接触状況が不明」という認定の足がかりです。「出所を指示する」ことも重要で、「人目を引く」ことや「広く知られている」こととは異なります。

第29条第1項第1号。両案とも本号に該当しましたが、経路が異なります。主案は中国語の語義の直接的な読み取り、対照案は語の分解という一工程を経ています。分解できるか否かは台湾の消費者が読み分けられるかによるのであって、字面に空白があるか否かではありません。

第29条第2項。本項が救済するのは第1号または第3号のみで、第2号の普通名称は対象外です。両案を並べると四つの考慮要素が浮かびます。十分な期間の使用、台湾の関連消費者に向けられた証拠、照合可能な定量資料、そして標識自体が出所表示として使用されていること(技術名称として扱われ、併記された他の商標に吸収されていないこと)。これらは総合判断の考慮要素です。

第29条第3項と第31条。権利不要求の声明が処理するのは「全体は登録可能だが一部は独占させるべきでない」場面であり、全体の識別力欠如には機能しません。第31条は出願人に実際に有用な是正機会を与えます。「TRUEMESH」の原処分が取り消された理由の一つは、拒絶理由の事前通知が具体的でなく、出願人が減縮や分割を判断できなかったことです。

実務上の留意点として、ブランド名称が説明寄りである場合、第29条第2項による救済は可能ですが、長期にわたる市場の事実が必要であり、証拠は出所を示していなければなりません。当初から標識を目立たせて使用し、台湾での販売・広告の照合可能な記録を残してください。外国での登録を台湾での保証と考えてはなりません。属地主義の下では、あくまで参考資料です。

付録:日本「空調服」事件についての補足的考察

日本の標準文字商標「空調服」の出願は品質表示として拒絶されましたが、知的財産高等裁判所令和2年(行ケ)第10084号は、説明的表示に当たるとの判断を維持しつつ、使用による識別力を認めて審決を取り消しました。台湾の第29条第2項に機能的に相当します。原告は当該語を誤用した報道機関に訂正を求め、複数のメディアが訂正した事実を、市場で当該語が誰を指すかを示す第三者資料として提出しました。主案における連江県政府の回答と、証拠の組み立てという点で共通します。

しかし救済されたからといって永久に安全とは限りません。2026年7月、同社はソーシャルメディアで普通名称への言い換えを呼びかけ、普通名称化のリスクが取り沙汰されました。台湾商標法第63条第1項第4号は、商標が指定商品の普通名称となった場合の取消制度を定めています。これは登録後の別のリスクであり、本稿が扱った登録段階の問題とは次元が異なります。

権利行使の資源をどこに配分すべきかという教訓もあります。一般消費者の用語は市場の語彙をほとんど動かさず、権利行使の対象としても適切ではありません。効果的で記録も残せるのは、報道機関、電子商取引プラットフォームの分類、同業者のカタログへの是正要請です。往復記録を保存しておけば、商標権者が識別力の維持を怠っていないことを示す証拠になり得ます。

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