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広報資料に商標名を記載すると侵害になるのか──台湾の裁判所は「商標としての使用」をどう判断するか

同じ「他人が自分の商標の文字を勝手に使った」という訴えでも、侵害と判断される事件もあれば、侵害でないと判断される事件もある。分かれ目は、ほとんどの場合「文字が似ているかどうか」ではない。相手がその文字を本当に「商標として使った」かどうかにある。

本稿では、同じ争点について正反対の結論に至った台湾の二つの判決を比較する。主案は知的財産及び商業裁判所114年民商訴字第12号(「金順安及び図」商標)で、被告の祭祀関係の資料は「商標としての使用にあたらない」とされ、原告の請求が棄却された。対照案は知的財産裁判所108年民商訴字第8号(「老天祿」商標)で、被告の「上海老天祿第二代自創ブランド」という表示が「商標としての使用にあたる」とされ、侵害が成立した。両判決は同じ出所識別の枠組みを用いるが、第36条を直接判断したのは108年事件だけである。以下、まず関係条文を掲げ、次に裁判所の当てはめを見る。

一、台湾商標法の条文

商標法第5条(商標の使用)

商標の使用とは、マーケティングの目的で、次の各号のいずれかに該当し、かつ関連消費者にそれが商標であると認識させるに足りるものをいう。
一、商標を商品またはその包装容器に用いること。
二、前号の商品を所持、陳列、販売、輸出または輸入すること。
三、商標を役務の提供に関する物品に用いること。
四、商標を商品または役務に関する商業文書または広告に用いること。
前項各号の事情を、デジタル映像・音声、電子メディア、インターネットその他の媒介物によって行う場合も、同様とする。

商標法第36条第1項第1号(記述的な表示に関する権利効力の制限)

商業取引の慣習に適合する誠実信用の方法により、自己の氏名・名称、または自己の商品もしくは役務の名称、形状、品質、性質、特性、用途、産地その他商品もしくは役務それ自体に関する説明を表示するものであって、商標として使用するものでない場合は、他人の商標権の効力に拘束されない。

商標法第68条(商標権の侵害)

商標権者の同意を得ず、マーケティングの目的で次の各号のいずれかに該当する場合は、商標権の侵害とする。一、同一の商品または役務について、登録商標と同一の商標を使用すること。二、類似の商品または役務について、登録商標と同一の商標を使用し、関連消費者に混同を生ずるおそれがあること。三、同一または類似の商品または役務について、登録商標と類似の商標を使用し、関連消費者に混同を生ずるおそれがあること。

商標法第69条第1項(侵害の除去および防止)

商標権者は、その商標権を侵害する者に対しその除去を請求することができ、侵害のおそれがある場合はその防止を請求することができる。

この四条は連動している。第5条は「商標の使用」を定義し、第68条は商標権侵害となる行為を定め、第69条は侵害の除去・防止を請求する根拠となる。第36条第1項は、表示が説明にとどまり、商標として使われていない場合などに商標権の効力を制限する。通常は、まず第5条の商標の使用にあたるかを確認し、次に第68条の要件を検討し、抗弁が提出された場合に第36条の適用を判断する。108年事件は第36条を明示的に判断したが、114年事件は第5条、第33条、第68条および第69条により結論を出しており、第36条を判断の根拠としていない。

二、判決評論

1. 主案の分析:114年民商訴字第12号「金順安及び図」

本件の対象は、宗教役務に関する「金順安及び図」商標(登録第02403877号、第045類「宗教集会の企画、法要の代行、宗教儀式の挙行」を指定)である。争われたのは市場の商品ブランドではなく、一艘の「王船」の名前である。王船とは、台湾の王爺信仰の祭祀で焼かれる儀礼用の船を指す。

原告は本件商標の商標権者であり、商標権の期間は2024年9月16日から2034年9月15日までである。原告は、一族が「金順安」の名称と船の形を代々受け継いできたと主張し、家廟には「金順安」と名付けた王船模型を置いて参拝の対象とし、法要を営み、鹿港天后宮への進香(寺廟への巡礼)も行ってきたと述べた。原告によれば、被告らは「金順安」の文字を付した王船を製作し、「金順安号水手会」を設立し、「金順安号王科大典」を開催して、写真や行事資料をFacebookとInstagramに掲載した。原告は、これらの行為には出所について混同を生ずるおそれがあり、第68条第3号の侵害にあたるとして、第69条第1項に基づく侵害の除去と防止を求めた。

被告は、当該宮廟とそのファンページ・Instagramの管理者である。問題とされた使用は、王船の名号、宗教旗、提灯の装飾、牌楼、儀礼のスケジュール表、活動ポスターなどに散在し、数年間にわたっていた。被告は、これらの「金順安」はいずれも王船の名称と活動内容を説明しているにすぎず、商標として販売しているものではないと主張した。

本件の核心的な争点は、「金順安」を祭祀文書と広告資料に書き込むことが、商標法第5条にいう「商標としての使用」にあたるかである。第5条は、商標の使用を「マーケティングの目的」で商標を商品・役務またはそれに関する商業文書・広告に用い、かつ「関連消費者にそれが商標であると認識させるに足りる」ものと定める。裁判所は、文字が同一かどうかだけでなく、商標権の効力の起点とその本質的機能に立ち返り、一層ずつ問題を解きほぐした。

第一の争点は時期である。第33条第1項によれば、商標権は登録公告の日に発生し、10年間存続する。本件商標の登録公告日は2024年9月16日であった。被告らの王船製作、水手会の設立、法要の開催と関連投稿の大半は、それより前に行われていた。裁判所は、商標権発生前の行為について侵害は成立しないと判断した。

公告日以降も残存し、掲載が続いた内容については、裁判所は実体的な判断基準に移った。第5条第1項を援用し、商標としての使用の三要件を導いた。すなわち、⑴使用者が商品または役務をマーケティングする目的で使用すること、⑵商標を使用する行為があること、⑶関連消費者にそれが商標であると認識させるに足りること、である。いずれか一つを欠けば商標法上の「使用」は成立せず、第68条の侵害を論じる余地もない。

裁判所は、商標の最も主要な機能は商品または役務の出所を識別することにあり、これは公平かつ自由な競争市場の正常な機能を維持するうえで不可欠の要素だと強調した。だから第三要件の「関連消費者にそれが商標であると認識させるに足りる」とは、客観的に消費者がそれを出所標識として認識できて初めて識別機能を備える、という意味になる。法が防ごうとしているのは消費者が「出所を取り違える」ことであって、単に誰かが「同じ文字を使う」ことではない。ここが事件全体の要点である。

裁判所は、ファンページとInstagramに掲載されたポスター、日程表、宗教旗、王船の写真を検討した。「金順安号」「船号【金順安】」などの記載は、宮廟がポエ占い(筊杯を投げて神意を問う儀礼)によって王船名を「金順安」と決めた経緯や、祭祀の順序を説明する文脈に置かれていた。「金順安」の文字は、大きさ、字体、色のいずれも前後の文字と同じであり、出所表示として目立つものではなかった。裁判所は、閲覧者に王船名と行事内容を伝える説明にすぎず、商標としての使用ではないと判断した。

裁判所は、原告の二つの主張も退けた。第一に、被告が後に類似標章を出願したことだけでは、それ以前の祭祀関係資料が商標としての使用であったとはいえないとした。商標登録出願の審査と、第5条の使用判断は基準が異なるからである。第二に、活動で金銭を徴収していたことだけでは、マーケティングの目的は認められないとした。徴収された金額は、普度(無縁の霊を供養する儀礼)への参加負担金と王船の準備に充てる負担金であり、建醮(地域共同体が行う道教祭祀)に関する費用であって、「金順安」という商品に付された価格ではなかった。

この判決理由からは、より広い政策上の問題も読み取れる。王船や王科大典は、地域の宮廟が長年続けてきた民俗活動であり、その名称が商標登録より前から地域で使われている場合もある。後から取得した登録だけを理由に、祭祀の文脈で同じ名称に言及することまで禁じれば、商標権の効力が説明的・儀礼的な表現に及びかねない。ただし、これは裁判所の出所識別に関する判断から導かれる考察であり、宗教活動名や地域で共有される名称が一律に商標権の効力外になると裁判所が明示したものではない。

裁判所は、登録公告日前の行為について、まだ発生していない商標権を侵害することはないと判断した。公告日後も掲載されていた資料についても、「金順安」は王船名の説明であり、第5条の商標の使用にはあたらないとした。このため、第68条第3号の侵害は成立せず、第69条第1項に基づく除去・防止請求も棄却された。原告の商標が無効とされたわけではない。判決が区別したのは、文字の帰属ではなく、具体的な使用態様である。

2. 対照案の分析:同じ争点で、なぜ結論が違うのか

108年民商訴字第8号「老天祿」商標事件では、被告が滷味(ルーウェイ、煮込み総菜)商品と広報資料に用いた文字が、商標としての使用にあたるかが争われた。原告は台北で著名な滷味店を営んでいた。被告らは「上海老天祿第二代自創ブランド」「上海老天祿第二代の店」などの文字を商品と販促資料に表示した。ある被告の店舗は原告店舗から60メートル未満の場所にあり、店頭のLED電光掲示板にも当該表示を大きく掲げていた。被告は、経営者の世代と老舗からの継承を説明しただけであり、商標として使用したものではないと主張し、善意による先使用と、指示的な使用も主張した。裁判所はいずれも認めず、商標権侵害の成立を認めた。

108年事件で裁判所が重視したのは、表示が実質的に何を伝えていたかである。「上海老天祿第二代自創ブランド」という文言は、表面上は経営者の世代を説明している。しかし裁判所は、商品の出所と「上海老天祿」の経営者とのつながりを消費者に想起させると判断した。この表示は、商品と特定の出所を結び付ける機能を果たしていた。そのため、単なる身分説明ではなく、商標としての使用にあたるとされた。主案の「金順安」は王船名の説明にとどまったのに対し、対照案の表示は著名店との関係を想起させる点で異なっていた。

  • 表示媒体の違い。主案の「金順安」は祭祀の流れの説明や王船の名称に現れ、字体は前後の文と一致して際立っていなかった。本件の文字は、滷味「商品」の看板・立て看板・スタンド・包装・ウェブ上の販促に直接用いられ、しかも最も識別力のある「老天祿」の三文字が原告の係争商標と同一で、客観的に消費者に商品の出所が「老天祿」と関係すると連想させるに足りていた。
  • 第36条第1項の適用の有無。裁判所は、同項の適用には「商業取引の慣習に適合する誠実信用の方法」により表示し、「商標として使用するものでない」ことが必要だと指摘した。被告らの表示には商標としての機能があるため、この要件を満たさなかった。これに対し、主案の「金順安」は第5条の商標の使用にあたらないと判断されており、114年判決は第36条を判断するまでもなく請求を退けた。
  • 著名店との関係を想起させる表示態様。裁判所は、「第二代」という表示が、消費者に著名な老舗とのつながりを連想させ、フランチャイズ店や関係会社であるとの誤解を招き得ると判断した。被告店舗と原告店舗の距離が60メートル未満であったことも、混同のおそれを高める事情とされた。証拠は菓子・キャンディーへの使用を示すにとどまり、滷味商品への先使用を証明しなかったため、善意先使用の抗弁は成立しなかった。裁判所は、侵害の除去・防止に侵害意思は必要ないとして、指示的使用の主張も退けた。
  • 協力業者の誤用も「防止」請求を妨げない。被告の一社は、協力していたネット通販プラットフォームがかつて原告の商標を誤って表示したことを認めたが、すでに削除・改善したと抗弁した。裁判所は、すでに削除していても今後再発しない保証はなく、当該被告は協力業者の誤用について「責任を帰すべき事情がある」から、なお第69条第1項に基づき防止を請求できるとした。

裁判所は、被告に対し、原告の商標と同一または類似の標識を同一または類似の商品に使用してはならないと命じ、すでに使用した広告看板・シール・立て看板・包装箱・ウェブページ・Facebookファンページなどはいずれも廃棄または削除すべきものとした(原告が係争商標を短縮した形に一律に捉えた点、および新聞掲載を求めた拡張請求は、一部棄却された)。

両案の分岐点は三つある。第一は表示媒体である。主案では祭祀の説明文と王船名に表示され、対照案では商品を宣伝する看板・包装・ウェブページなどに表示されていた。第二は表示の目立ち方である。主案の文字は周囲と同じ字体で強調されていなかったのに対し、対照案では識別力のある「老天祿」が目立つ形で表示されていた。第三は表示が果たした機能である。主案は王船名を伝えるにとどまったが、対照案は商品と著名店との関係を消費者に想起させ、出所を示す機能を果たしていた。

三、商標法の逐条釈義

条文そのものに立ち返れば、両案の分岐はいずれも構成要件に正確に対応している。

第5条(商標の使用):中心となるのは、関連消費者が表示を商標と認識するかである。判断は、①商品・役務をマーケティングする目的、②第5条所定の使用行為、③関連消費者が商標と認識できる表示、という三つの観点から行われる。第三の観点は、表示が商品・役務の出所を識別する機能を果たしたかを問うものである。逐条解説が挙げる「ベートーヴェン・ラテックスマット」は、品質や機能を説明する語ではなく、出所表示として認識される例である。これに対し、「萃取」の文字が「生機精華萃取機」という一体の説明に組み込まれ、字体や配置も同じであれば、商標とは認識されにくい。「金順安」は王船名の説明として周囲の文字と同じ態様で表示されていたため、商標としての使用とは認められなかった。「上海老天祿第二代」は、商品を老舗の出所と結び付ける機能を果たしたため、商標としての使用と判断された。

第68条(商標権の侵害):中心となるのは、出所識別機能の保護と混同の防止である。第68条を適用する前提として、まず第5条の商標の使用があるかを確認する。そのうえで、標識と商品・役務の類否、混同を生ずるおそれを検討する。主案では第5条の要件を満たさなかったため、第68条による侵害も成立しなかった。対照案では、識別力のある表示が類似する滷味商品に用いられ、消費者に出所の関連を連想させたため、侵害が成立した。第68条第1号は、混同を生ずるおそれを別個の要件としていない。第2号と第3号では、そのおそれが必要となる。

第36条第1項(記述的な表示に関する権利効力の制限):商標として使用していないことが要件となる。同項は、誠実信用の方法で商品・役務それ自体に関する説明を表示し、商標として使用していない場合などに、他人の商標権の効力を制限する。対照案では、「第二代」であるとの説明が実際には出所を結び付ける機能を果たしたため、この要件を満たさなかった。主案では、そもそも第5条の商標の使用が認められず、第36条を判断する必要がなかった。

権利を主張する場合も、侵害を争う場合も、文字の同一性だけでなく、表示態様と出所識別機能に着目する必要がある。商品や販促物に目立つ形で表示されれば、商標としての使用と判断される可能性が高まる。他方、行事説明の中に置かれ、周囲と同じ字体で目立たない場合には、単なる説明と評価される可能性がある。結論は、具体的な表示態様と文脈によって異なる。

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